筑前黒田武士の江戸日記

~隔月で第1土曜日に更新~

vol.58 幻の天守閣

 東京国立博物館ミュージアムシアター「熊本城」を見てきた。CGで再現された熊本城をナビゲーターの女性がツアーガイドのように案内してくれる。大きなスクリーンに展開される映像はかなりリアルで、人の目線で画像も動いていくので、実際に城内を歩いて進んでいくような感覚になり、なかなか堪能できた。このシアターでは、過去には江戸城も上映されたようだ。

 福岡城も是非シアターで再現してほしいところだが、その福岡城が何と天守閣を再現。福岡城夏祭り2017の目玉企画で、「100枚の巨大パネルで蘇る!」という触れ込み。どんなものが出来るのか気になっていたが、図書館で西日本新聞を見てみたら、掲載の写真には予想外に見事な五層の天守。しかし、これが実は三次元ではなく二次元だった。要は巨大な絵を天守台に立てかけたということで、これもまた予想外。さすがに二日間のお祭りのためだけで、立体の天守閣の実現は難しいだろうが、絵がよくできているので、角度によっては実物のように見えたそうだ。

 地元では天守閣の建物を実際に復元しようという向きもあるらしい。少し前にBS朝日「日本の城見聞録」福岡城が特集されていたが、ここでも天守閣は話題になっていた。しかしながら、である。天守閣の話ばかりが独り歩きするのは、やや気になりもする。福岡城天守閣はなかったとするのが従来の定説。近年、一部の史料の記述から、天守閣は存在したとする説が盛り上がってきたわけだが、根拠として十分な段階とは言い難いようにも思う。

 存在説の拠り所は、江戸時代初期に福岡城天守閣が取り壊されたように読める、よその大名の手紙の一文である。その姿を知る絵も図面もない。少なくとも、城が福岡の政庁として機能していた時代の大半は、天守閣はなかったと言えるわけで、せっかく残っている天守台に、空想の天守閣でも建ててしまっては、むしろ往時をしのぶ景観が損なわれてしまうような気がするのだ。幻の天守閣。あったかもしれないし、なかったかもしれない、という話に留めておく方が、むしろ歴史のロマンというものではなかろうか。