筑前黒田武士の江戸日記

~隔月で第1土曜日に更新~

vol.02 小説のなかの黒田武士

 室麟さんの小説『秋月記』を読んだ。『蜩ノ記』の直木賞受賞にちなんで書店に設けられた葉室作品コーナーで「秋月」の文字が目にとまり、思わず購入した。「藤沢周平を超え得る」とする巻末解説の絶賛ぶりは、藤沢ファンとしてはやや褒めすぎにも思えるが、黒田武士の日常が描かれているところに親しみは感じる。昨年はテレビドラマでも、秋月黒田藩を舞台にした「遺恨あり 明治十三年 最後の仇討」が放映されたが、いずれの作品も主人公は黒田武士。黒田武士の子孫である私としては何か嬉しい。

 ただ『秋月記』は、実在する人物と架空の人物がかなり混在している。文学作品として楽しむべき小説に、事実関係を追及するのは野暮というものかもしれないが、どこまでが歴史的裏付けのある話なのか分からないのは、もどかしい。宮尾登美子さんの小説『天璋院篤姫』には、篤姫付の年寄幾島が「福岡黒田家の江戸次席家老、鎌田良純が娘」と自己紹介するくだりがある。大河ドラマでも主要人物だった幾島が福岡藩出身であるなら興味を引くが、幕末に鎌田姓の家老はいないはず。史実か否か判然としないのは、歴史小説の悩ましいところだ。

 さて、明日から始まるNHK大河「八重の桜」が楽しみだが、来年の次作「軍師官兵衛」も早くも待ち遠しい気分でいる。黒田官兵衛といえば、昨年、テレビ東京の正月時代劇(「戦国疾風伝 二人の軍師」)でドラマ化されたが、今度は大河である。インパクトが違う。書籍では司馬遼太郎『播磨灘物語』など名作が多いが、既存の小説を原作としないオリジナル作品となるらしい。ドラマとはいえ、なるべく史実に忠実であってほしいが、映画「天地明察」が好評だった岡田准一さんには名演を期待したい。