筑前黒田武士の江戸日記

~隔月で第1土曜日に更新~

vol.39 太政官札贋造事件

 日本銀行の広報誌『にちぎん』(No.44 2015年冬号)に、太政官札贋造事件の記述を見つけた。「お金の源―素材の歴史と作り方」と題したコーナーで少し触れられている程度ではあるが、意外なところに福岡藩の名を見つけると、何か嬉しくなる。

 福岡藩が廃藩に追い込まれた明治4年(1871)の贋札事件は、松本清張の「贋札つくり」に描かれている。「大名の藩政をみている重臣達の非運な終末を題材とした」(『松本清張全集35』あとがき)というこの短編小説では、明治政府に責任を問われ処刑された藩幹部に対して、「藩の輿論は彼らに同情的ではなかった」とされる。財政窮乏の藩を救うためとはいえ、一部の幹部だけで極秘裏に偽札製造を実行し、露見して逆に藩を窮地に陥れたことが理由のようだが、責めを負った当事者たちの思いはどうだっただろうか。当時の我が家の親族も関与していたようなので、個人的にも関心のある事件だ。

 「贋札つくり」によれば、責任者の一人である大参事の立花増美は、処刑前、「役人が呼びにくると、「ああそうかえ」といって上体を曲げたまま片手をついて立ち上がり、首をふって一度で煙管を筒の中に納めると駕籠に乗った」という。思わず状況を想像してしまうエピソードだが、享年36歳であるはずの彼は、小説では「老人」とされており、「絶えず年寄りらしい仕ぐさを繰り返している」などという描写もある。大参事の「福間重巳」なる登場人物も、どうも郡成巳のことのようだが、どこまでが史実なのか。小説ならではのもどかしさも感じる。

 日銀の方の黒田さんも、苦悩が続いているようだ。「黒田節」も賛否が分かれているが、目標の物価上昇は遠のくばかり。もはや、太政官札ならぬ「日銀券」を大量にばらまいて、無理やりインフレでも起こすしかあるまいか(?)。