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筑前黒田武士の江戸日記

~毎月第1土曜日更新~

vol.48 中老

 仕事帰りの電車の中で、隣の人が読んでいる小説が何気なく視界に入ったのだが、「福岡藩」「中老」という記述に思わず目を見張った。福岡藩中老と言えば、6千人規模の黒田家臣団のなかで最上級の家格。表紙が見えないので、本の題名がわからない。が、ページ上部にある章のタイトルをスマホで検索してみたら、出てきた(便利な時代である)。佐伯泰英さんの『空蝉ノ念』。NHKの時代劇にもなった「居眠り磐音 江戸双紙」シリーズの第45巻だ。

 思わぬ発見で、さっそく図書館で読んでみた。小説に描かれている福岡藩中老は、吉田保恵。江戸家老の黒田敬高なる人物も出てきた。時代小説なので、いずれも架空の人物かと思うが、保恵の父は吉田久兵衛保年(黒田高年)という設定。こちらは藩政改革を主導した実在の家老だ。調べてみると、吉田久兵衛はシリーズ第22巻の『荒海ノ津』で物語の主要人物になっていた。久兵衛の跡を継いだ吉田弾番も有名な家老だが、保恵とは名乗っていないようである。

 吉田久兵衛の実家は支藩(直方藩)で250石程度の家ながら、彼は本藩中老の吉田家の養子となり、黒田姓と藩主の編諱を許される7千石の大身家老として活躍。子会社の一社員が、いきなり親会社の役員になるようなサプライズ感もあったろうか。失脚、復職と紆余曲折もあって、波乱万丈な人生には興味を持っていたが、小説に登場していたとは。「福岡藩では実務方の最高職の家老は中老から任じられた」とする記述は史実通り。福岡県出身の佐伯さんは、地元にヒントを得たということなのだろう。

 ちなみに、我が家は出世した時代もあったようで、中老ではないが「中老格」だったとされる当主がいる。当家の系図以外で「中老格」について書かれた史料は、「文化分限帳」(『福岡藩分限帳集成』所収)くらいしか見たことがないが、そこには「御中老格 斉藤五六郎 在勤の間弐千石廿五人扶持」とある。斉藤家は600石だから、在勤中の加算給は相当なものだ。我が家も同じ待遇だったのだろうか。中老と同格ということかと思うが、足高の多さを考えると、格式だけの話ではないような気もする。実態はどんなものだったのか。長らく関心事項の一つなのだが、未調査である。