筑前黒田武士の江戸日記

~奇数月の第1土曜日に更新~

vol.59 同族

 島崎藤村『夜明け前』に、主人公の青山半蔵が同族の青山寿平次と横須賀の公郷村を訪ね、三浦一族の末裔という山上家の歓待を受けるくだりがある。成り行きは、寿平次が営む妻籠の本陣に泊まった山上を名乗る客が、自分の家と同じ家紋に気付いて青山家の出自を尋ねたところ、偶然にも遠い昔に枝分かれした同族であることが判明し、今度は2人が出向いて旧交を温めたという話。モデルとされる島崎家で実際にあったことなのかは分からないが、何かロマンチックな出来事である。

 似たような話が我が家にもある。別系で井伊家に仕えた同族があり、代々彦根藩士として続いているが、疎遠になっていたところ、安永3年(1774)、江戸詰だった我が家の当主が、福岡藩邸の出入り商人から彦根藩邸に同族ありとの情報を得てアプローチ。双方藩邸に招きあって会食し、旧交を温めたのだそうだ。当日の服装、献立など詳しい記録が残されており、大事な出来事だと考えられたのだろう。彦根藩邸訪問時の供連れの記載もあり、侍分が4人、馬の口取り2人に、槍持ち、挟箱持ち、草履取り、長柄持ち、合羽籠持ちが各1人で、総勢12人と仰々しいが、この家来たちにも赤飯や酒などが振る舞われている。

 その後、時代が下って、この同族の子孫を私の曾祖父が訪ね、親しい付き合いをはじめたようだが、私の祖母の女学校時代の友人のお姑さんが、これもまた偶然、その同族の家の人だったと聞いている。NHK大河「おんな城主直虎」を見て、ふと井伊直政に仕官し枝分かれした同族のことが頭に浮かんだのだが、このドラマの時代からのご縁。なんという歴史の深さか。思わぬところで、時空を超えた思わぬ再会があるものだと、家系図をたどりながら改めて感慨に浸った。